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(Question)遺伝システム革新学分野は何を研究しているのですか?

(Answer)遺伝システム革新学分野では、「擬態や変態」、「肢・翅・触覚などの適応進化」といった昆虫の興味深い発生現象、テロメアやリボソームDNAの特定部位だけに転移する利己的遺伝子(レトロトランスポゾン)の適応戦略、の背景となっている分子機構を主に研究しています。研究メンバーは、分子・細胞から個体発生にいたる様々な新規性の高い現象を研究しており、分野全体は特定の狭いテーマに集約していません。一見散漫に見える研究ユニット全体を見渡して名づけた「擬態・変態・染色体」は、研究室のキャッチフレーズです。遺伝システム革新学という分野の名称も変わったものですが、遺伝子発現の総和としてのネットワークシステムが適応的にどのように変革したかを研究しよう、という意図でつけられました。分野の研究内容を一言で言い表すとすれば、「生命システムの適応戦略を進化的視点から解明する」です。

現在研究室で行っている、主なプロジェクトの概要を以下に簡単に説明します。さらに詳しい研究内容を知りたい方は、各項目の最後にある「さらに詳しい内容はこちら」をクリックください。

1.LINEって何?: レトロトランスポゾン(LINE)の転移機構の解明と応用
2.奇妙な昆虫のテロメア: テロメアを標的するメカニズムとその進化的背景
3.翅は変態する: 昆虫ホルモンによる翅形成の制御機構
4.アゲハの幼虫は鳥の糞?: 昆虫体表の擬態紋様形成の分子メカニズム
5.硬いタンパク質: 昆虫の皮膚形成をヒントとした新たなたんぱく質架橋方法
6.付属肢の発生メカニズムおよびその進化と多様性

1.LINEって何?: レトロトランスポゾン(LINE)の転移機構の解明と応用

 LINE(別名non-LTR型レトロトランスポゾン)はほとんどの高等生物に存在する利己的遺伝子の一つです。例えばヒトゲノムでは約20%を占め、さまざまな遺伝病の原因ともなっていると言われますが、その転移機構についてはほとんどわかっていません。当研究室では、これまで昆虫のテロメアにのみ転移するレトロトランスポゾン(LINE)の転移機構について詳細に調べてきました。最近になってウィルスを用いて細胞外からLINEを強制的に導入し、テロメア部位に特異的にLINEを転移させることに成功しました。この新たな実験技術を利用して、LINEの転移に必要な構造や機能を網羅的に解明し、LINEの転移機構の全貌を明らかにしようと考えています。また、その成果を応用して、これまで全く想定されていなかった部位特異的な遺伝子治療用ベクターや広範な動物への遺伝子導入ベクターとして利用する研究を進めています。

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2.奇妙な昆虫のテロメア: テロメアを標的するメカニズムとその進化的背景

 ほとんどの真核細胞では、染色体の末端テロメアはテロメラーゼという特殊な逆転写酵素によって作られます。しかし、奇妙なことに、ショウジョウバエやカイコといった昆虫にはテロメラーゼ遺伝子が存在しない(もしくは機能が低下している)と考えられています。私たちは、その原因を調べるとともに、テロメアに特異的に転移するLINEがテロメアを維持している可能性、テロメラーゼとLINEの逆転写酵素の比較などを通してテロメア構造とテロメア機能の進化・起源を探っています。さらにテロメアなど特定のゲノム領域に転移するLINEがどのように進化してきたのか、ヒト細胞でテロメア特異的LINEによってテロメアを人為的に伸ばすと細胞の寿命にどのような影響を与えるのか、などについても興味をもっています。  一方、テロメアに転移するレトロトランスポゾンの内部には標的を切断する特異的なエンドヌクレアーゼが存在します。この酵素は昆虫もしくはヒトのテロメア反復配列を特異的に切断する能力があり、テロメアを切断する酵素としては唯一知られるものです。テロメアを特異的に切断するメカニズムを分子生物学、構造生物学の両面から調べるとともに、抗腫瘍剤などへの医学的な利用の可能性を探っています。

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3.翅は変態する: 昆虫ホルモンによる翅形成の制御機構

 変態はヒラメやカエルといった脊椎動物を含めほとんどすべての動物にみられ、ホルモンによって個体の発生が環境適応的に制御される現象です。我々は、チョウなどが変態時に多様な翅を形づくる現象、ある種の雌の蛾(アカモンドクガ)が変態時に翅を消失させる現象などが、エクダイソンや幼若ホルモンによって制御されていることを発見しました。変態時に翅がどのようにして生じるか、性ホルモンの存在しない昆虫で性分化がどのように起こるか、など興味深い題材の背景となっている分子メカニズムを研究しています。また、2004年度に全ゲノム配列が明らかとなったカイコの無翅変異体群の原因遺伝子を網羅的に解明しようと試みています。

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4.アゲハの幼虫は鳥の糞?: 昆虫体表の擬態紋様形成の分子メカニズム

 動物の体表には様々な紋様が見られます。紋様の変異は動物の進化の過程で生活史や行動戦略の中に組み込まれ、ある種の昆虫などでは“擬態”として生体防御に役立っています。しかし、動物の体表の紋様がどのような分子機構によって形作られるのかはほとんど知られていません。そこで、最後の脱皮の際に「鳥の糞」に擬態した紋様から「柑橘類の葉っぱ」の紋様に切り替えるアゲハ、ベーツ型擬態をするシロオビアゲハ、多様なカイコの幼虫紋様変異体などを用いて、幼虫体表の紋様や成虫翅の紋様形成の遺伝的制御機構を明らかにしようと研究を進めています。

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5.硬いタンパク質: 昆虫の皮膚形成をヒントとした新たなたんぱく質架橋方法

 昆虫の皮膚、卵などのたんぱく質にはGGYGGというアミノ酸構造が含まれるものがあります。従来この構造が何をしているかは不明瞭でした。私たちは、硬いたんぱく質をつくるための構造なのではないかと考え架橋実験を行ったところ、GGYGGがチロシナーゼにより特異的に架橋できることを発見しました。この構造を利用してプロテインチップを作成するなどいくつかの応用方法を想定して研究を進めています。

6.付属肢の発生メカニズムおよびその進化と多様性

 地球上に生息するさまざまな生物は、周りの環境にうまく適応するように、さまざまな形態を進化させてきました。肢や触覚、口器、翅といった昆虫の生活に必須の器官である付属肢も、環境に適応するためにさまざまな形態をしています。また、肢や触覚、口器は、もともとは同じ形態をしていた器官が、その機能に特化した形態に進化してきたと考えられています。私達は、付属肢の発生メカニズムや特異性決定メカニズムをショウジョウバエの肢や触角、口器をモデルとして詳細に解析するとともに、さまざまな昆虫の付属肢形成過程をショウジョウバエの研究からの知見を基礎に解析することで、付属肢の形成メカニズムや進化と多様性獲得のメカニズムを解明しようとしています。このような研究を通して、生物の姿形がどのようにして出来上がるのか? どのようにして生物種ごとの多彩な姿形がつくられるのか? それはどのように進化してきたのか? ということを遺伝子の言葉で説明できるようになることを目指しています。 

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ネットサイエンスが発行しているNetScience Interview Mailに藤原晴彦のインタビューが掲載されています。本研究室の研究内容についてもかなり詳しく書いてありますので、是非、そちらもご覧ください。

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